the ruins of a castle 「それが、エマ博士の返事なのですか?」 「触るな。壊すな。踏み荒らしたら殺す。」 通信機から返ってきた返事を正確に復唱したロディの言葉にセシリアとザックは顔を歪めた。 「…以上だよ。そんな顔しないでよ。二人とも…。」 困った顔の二人にロディも眉を寄せる。 (貴方のせいでは無いのです。)セシリアの心がそう叫ぶ。エマ博士の台詞はいつもの調子で納得のいく内容であるものの、ロディの口から発せられるとなんとも言えない違和感がある。 「でも、殺すとおっしゃられても、私達はいつまでこうしてここにいればよろしいのでしょうか?」 あちこちに散乱した瓦礫の中心。見渡す限りの砂漠のど真ん中に三人は立っている。 「僕もそう聞いたんだ。でも、『秘策がある』って。」 「あの博士の秘策!?とんでもなさそうだな。」 とんでもないと口には出しつつ、挑戦的に口角を緩ませたザックに、ハンペンは釘を刺す。 「ドレイク船長の災難をわすれたのかい?いつ自分に降りかかるのかわからない厄災は、正に人災の呼び名に相応しいね。」 セシリアは、頬に手を当てて考えこみながら暮れゆく空を見つめた。砂漠の空全体に大きく赤い夕日がかかる。それと同時に気温が下がってくるのを感じた。 「このまま、ここにいるわけにはいきませんわ。魔物も出るでしょうし、此処は砂漠です。気温が下がったら私達が参ってしまいます。」 「そうだな。僕やザックはともかく、セシリアを此処に置いておくわけにはいかないな。」 さりげない優しさにセシリアが頬を染めた直後、静かなる砂漠に再び爆音が響いた。 「何だ!?」 背中にうけた空気の震えに、三人が振り返ると、火の玉が空に浮かんでいた。それは放物線を描き、徐々に大きくなってくる。 さて、問題です。そこから導き出される結論とは。 「…突っ込んでくる!?」 ザックはハンペンを両手で掴み横に跳んだ。ロディはセシリアの手を引き離れようとするが、落下速度の方が早いのに気付くと、彼女を両腕で抱え上げた。 「ロディ!?」 「しっかり掴まってて!」大きく跳んだ二人が今までいた場所に、それは落下した。 ザックが破壊した遺跡は、今度は崩壊の呼び名が相応しい状態になっていた。大きく開いたクレーターは、砂漠にぽっかりと穴を開けている。闇の中には燃え残った破片がチラチラと残り火を宿していた。周りには何とも言えない油臭さが漂っている。 日が落ちた辺りは暗い。しかし、四人と一匹の顔色もまた完全に暗かった。 「やだ、粉々じゃないの。」 まるで他人事のように言うエマに、思い切りよく顔を歪める。 「エマ…(片道君)どころか目的地まで持たなかったじゃないか…。」 恐らく肉体労働派ではないニコラは疲れ切った顔でそう言った。 「何言ってるのよ。もったじゃない。着いてるわよ。私。さあて調査するわよ〜」 「何を調査すんだよ!この穴のよ!!」 ブチッときたのは血管だけではなかったらしく、ザックの口からは不平不満とエマに対する評価の言葉が湯水のように流れ出した。 エマは両手で耳を塞いで、それを聞き流し、(てか聞いて無い。)ゼイゼイと肩で息をするザックに悠然と微笑みかけた。 「あらあら元気ねぇ〜。」 にまっと口角が上がったのを見て、皆が嫌な予感に襲われる。 ザックもギクリとエマを凝視した。 「だったら、大丈夫よね。ほら頑張りましょう。」 ぱんぱんと手の拍子までついている。勿論頑張るのは『エマ』ではない。 「ふざけんな!」 残る力を振り絞って抵抗しようとしたザックの左右から、ロディとニコラが腕と肩を掴む。そのまま引きずるようにして元遺跡に向かった。 「ザック君。これ以上騒ぐのは体力の無駄遣いというものです。砂漠は冷えますからね。」 ニコラがはあと溜息をつく。 「…諦めよう、ザック。きっと直ぐに終わるさ。」 根拠のない慰めの言葉を言いながら、ロディもまた溜息をついた。 「ザックがあんなに語彙が豊富だとは思いませんでしたわ。」 大きく目を見開いて、様子を見ていたセシリアの第一声はそれ。 肩に乗っていたハンペンは、呆れて耳と尾を垂らした。 「これだからお姫様って人種は…。あれはただの罵詈雑言だってば…。」 「ちょっと!頼りになる知性派ネズミさん!解説してよ!」 ザック達が向かったのとは反対側から、エマの声が二人を呼んだ。 content/ next |